2019年3月5日 更新
日本は歴史上例のない超長寿社会の入口にあり、人生100年が普通になることも予想されている。
しかしただ単に寿命が延びただけで、病魔に苛まれ貧困に喘ぐことになっては、「私たちは何をやっていたのだ」ということになってしまうであろう。
そこで今年度のトップフォーラムは、「豊かで健康な長寿社会の建設」をテーマとして取り組みたいと思う。
2019年の東京銀杏会第24回トップフォーラムは、3月16日(土)13時30分から東大本郷キャンパス理学部小柴ホールで開催いたします。
2019年3月16日(土)13時30分~18時
東京大学構内理学部1号館2階「小柴ホール」
医師、医学博士、東京大学・高齢社会総合研究機構教授
なぜ老いる? ならば上手に老いるには― 国家戦略としての「フレイル予防」―
(フレイルとは、体が弱くなっている状態のこと。早く介入すれば元に戻る可能性がある。)
健康長寿を実現するために、改めて何に気をつけるべきか。「健康⇒虚弱⇒要介護⇒衰弱⇒天寿」という一連の流れのなかで、国民に少しでも前向きな気持ちで予防意識を高めてもらうことも狙い、虚弱のフェーズを『フレイル(Frailty)』という新たな概念で位置付けた。
このフレイル概念には身体的衰えの側面だけではなく、心理的/認知的フレイルおよび社会的フレイルなどの多面性も含まれ、これらの負の連鎖として自立度を落としていく。
フレイル予防、すなわち健康長寿の実現のため、国民一人一人に、「栄養(食と歯科口腔)・運動・社会性」の3つの柱を三位一体として、どのように意識変容・行動変容させるのか。そして地域自体のフレイル化をどう抑制するのか。
多面的なフレイルへの一連の包括的アプローチ施策として、フレイル予防は『総合知によるまちづくり』という認識の下、自治体行政、各専門職能、市民自身が二人三脚を組む必要がある。
認知症介護研究・研修東京センター センター長
認知症を正しく理解して予防(先送り)し、適切に対応すれば「笑顔の老後」
アルツハイマー型認知症は認知症発症の20年以上前から脳病変が始まっている。予防は発症を先送りにすることで、健康的なライフスタイルで先送りできるが、長生きしていればいずれなる可能性が高い(現在95歳以上の8割が認知症)。
運動がとくに有効だが、何のために認知症を先送りするのか?答は「死ぬまで働くため」。若年性(65歳未満)は早期発見が大切だが、90歳超高齢者で早期発見する必要があるだろうか?現在の治療薬は進行を少し遅らせるだけの効果しかなく、超高齢者では副作用も出やすい。認知症になっても介護者が適切に対応すれば、本人は笑顔で過ごせる。
今後、根本的治療薬ができて発症の10年前から治療すれば、アルツハイマー型認知症を発症しない。ところが、アルツハイマー型認知症は高齢者の死因の一つなので、治療できるようになると、平均寿命はさらに延び、高齢者人口がさらに増え、「高齢者 健康長寿で 皆貧乏」の時代が来るだろう。
(株)ニッセイ基礎研究所 生活研究部 ジェロントロジー推進室 主任研究員
東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
人生100年時代の高齢者の暮らしとお金
人生100年時代、最期まで安心して暮らしていくためには「お金」が必要です。そのお金にも“寿命”があります。漠然と何とかなるだろうと考えていてはいけません。しっかりと先を見据えた対策が必要です。
私からはまず前提認識として、
の取組動向についてお話させていただきます。その上で、
とテーマを拡げながらその「対策」を考えます。
その中では、最大の生活保障となりうる“生涯現役社会”の実現、高齢者等の暮らしを支える“地域包括ケアシステム”の実現に向けた、最新動向もご紹介したいと思います。
明治大学政治経済学部 准教授
世代で閉じる社会保障制度改革
現在の日本の財政状況を考える際に、債務だけを見て判断してはいけない。政府資産とあわせたバランスシートの視点に立つと、日本における財政問題は現時点の債務残高そのものにはないことがわかる。
日本の財政における課題は、今後の増大が見込まれる社会保障費について長期的な均衡をはかることにつきる。現在の社会保障制度は世代間移転を前提に設計されているため、年齢構成から強く影響をうける。維持可能な社会保障制度への転換にあたっては、世代内移転を前提としたシステムの構築が求められる。
その際には、寿命・傷病・介護それぞれについて、日本人の平均値付近に損益分岐点をおいた制度—つまりは保険数理面で妥当性のある仕組みを、急ぎ準備しなければならない。社会保障を巡る制度移行には時間がかかる。我が国における最後のボリュームある世代である団塊ジュニアが新制度に移行できるよう改革を進めるためには、残された時間はそう長くない。
内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局 地方創生総括官補
超高齢時代の住まいとまちづくり
人生100年時代においては、住まいは戸建ての持ち家をアガリとする、住宅双六は通用しません。すでに高齢期の住まいをどうするか、賃貸を含めて当初から様々な選択があるなど、従来の常識は変わってきています。今後の住まいのポイントは何か。
まず、サービス付高齢者住宅にみられるように、住宅政策は「住宅建設」から「住生活」に舵をきっており、サービスも含めてくらしの場としての視点を重視する方向にあります。
次に、空き家問題を含め、既存の(中古)住宅の流通は、高齢者が住宅という形で形成してきた資産をフロー化させ、老後を安心して過ごさせるためには喫緊の課題です。さらに、地域包括ケアへの対応を含めて、住宅の立地問題、いわば「地域・まち」に住むという感覚はより一層重要となります。このような問題に対し、現在どのような答えが用意できているのか、住み替える場合、住み続ける場合も含めて、共に考える機会となると幸いです。